2022年、新年おめでとうございます。
まずは、いまなお新型コロナウィルス感染症によって影響を受けられている世界中のすべての人々へ謹んでお見舞いを申し上げます。また、医療現場の最前線で治療に当たっているすべての人々、感染拡大防止のために昼夜を問わずご尽力されているすべての方々にも深謝します。
なにしろ「コロナ」とこうして文字化しただけでグーグルのアルゴリズムに引っかかる厳しい時代です。この文章もほら、注意書きが…(笑)。でも、コロナウィルス発生時の当時は、『ニューズオプエド』の放送もYOUTUBEでは頻繁にBANされていましたから、それを考えればまだマシになったのでしょう。
あの2年前、『ニューズ・オプエド』アンカーの井沢元彦さんの先駆的な警告で始まった弊社のコロナ対応ですが、国内ではGMOとほぼ同じ時期(2019年2月)に、自宅待機やリモート勤務、番組のZOOMへの完全移行、マスク必着放送などを実施、スタッフや番組出演者の被害を最小限に食い止めることができました。これもなによりスタッフと出演者のみなさんの努力の賜物です。改めて御礼を言わせてください。ありがとう。
思えば、当時は「マスクを着用して人前に出るとは何ごとだ!」とか、「放送でマスクは失礼だ…」と叩かれたものです。テレビ東京の大江麻理子アナがマスクを着用してスタジオに現れたのは私たちが独自のコロナ対策を実施した一年後のことです。価値観はこうして変わっていくものです。そして、先駆者たちはいつの時代も非難されるものです。それが世の常です。
さて、株式会社NOBORDERは今年で10年目を迎えることができました(前身の㈱U3Wから合わせると12年目)。G7先進国首脳会議(サミット)や米朝首脳会議、トランプ大統領の当選などを唯一現地から報道し続けているネットメディアとして、また、国内でもとかく分断されがちな左・右に限定されない多様な言論を提供する報道機関として、揺るぎのない信頼と実績を得てきました。
これは単なる自画自賛ではありません。「nippon.com」を立ち上げたネットメディアの草分け的存在の原野城司NOBORDERニューズ東京解説委員長らが、弊社の趣旨に賛同し、具体的に参画してくださり続けているのは、そうした実績があるからにほかなりません。わたしたちは、巷に溢れる日本のイエロージャーナリズムやバイラルメディアとは異なった仕事をしているのです。これからもフェアな姿勢で踏ん張っていきましょう。
中でも、2014年から続いている『ニューズ・オプエド』は、連日必ずゲストが出演する生放送の番組としては、日本のみならず、世界でも唯一といっていいほどのメディアに成長しました。放送回数は1800回近くに及び、出演ゲストものべ3000人を超えました(2022年1月現在)。これは間違いなくジャーナリズム史に残る偉業なのです。
しかし、そのような成果に対して、なぜか日本のメディアで取り上げられることはありません。このことに関して「なぜなの?」と疑問を持たれる方がたいへん多いのですが、答えはことのほか単純です。それは、日本のメディアは、NOBORDERや『ニューズ・オプエド』を黙殺することで、自らが直面している「現実」に向き合うことができないだけなのです。彼らの報道ルールは時代遅れで、世界で通用するものではありません。記者クラブシステムやオプエドを採用しないことがその象徴ではありませんか。
彼らからの評判を気にすることはありません。NOBORDERは、リテラシーの高い視聴者や海外のメディアから圧倒的な評価を得ています。日本のメディアからの評価についても、いつかフェアなジャーナリズムの神が審判してくれることでしょう(そもそも承認されることがジャーナリズムの仕事ではありませんが、評価や承認も人々からの社会的認知のうえで欠かすことのできない要素なので)。
とはいえ、『ニューズ・オプエド』の未来が輝いているかというと、残念ながら、そうではありません。年頭に厳しい現実を告白しなくてはならないことはつらいことですが、経営者として正直に伝えなければなりません。
2年に及ぶコロナ禍はオプエドを支えてくださった多くのスポンサー企業を直撃しました。『ニューズ・オプエド』の支援企業の多くは飲食業や宿泊業であり、中でもここ数年の最大スポンサーは世界ナンバー2のクルーザー企業の「MSC」でした。厳しい時代に広告費どころではないのは十分理解できることです。
現在スポンサーからの広告収入はコロナ前の約1割にまで落ち込みました。コロナ禍のこの2年間は、経営陣の整理や役員報酬の見直し(ちなみにわたし上杉の報酬は3期連続で減額させてもらっています)、次期予算分の取り崩しや追加融資などで耐え忍んできましたが、いよいよ限界が近づいてきました。
実は『ニューズ・オプエド』単体の事業では、この8年間、一度も黒字化したことはありません。PRやコンサルタントなどの他の事業や上杉個人の印税収入などを拠出して『オプエド』の赤字を補填してきたのが現状です。経営のプロなどに相談すると、口をそろえて「この不採算部門(オプエド)を無くせば、(NOBORDER社)は素晴らしい業績になります」と言われます。
しかし、それでは本末転倒です。株式会社NOBORDERは単なる営利企業ではなく、歪んだ日本の言論空間の健全化を目指すという崇高な目的のもとで創業された会社です。不採算部門であり続けながら『ニューズ・オプエド』を止めないのはそうした理由があります。いまや『ニューズ・オプエド』は弊社にとってのみならず、日本のメディアにとって不可欠な存在になっています。
全世界のメディアもジャーナリズム部門では同様の厳しさに直面しています。報道やジャーナリズムは、まじめに追求すればするほど資金がなくなるのは世界共通のメディアの宿命なのです。
元旦のことです。箱根の富士屋ホテルでの同社社長の年頭所感では、社員らに次のことばが送られました。
「雲外蒼天」(厚い雲の上には青い空が広がっている。転じて、困難の先には必ず希望があるという譬え)
この2年間、コロナ禍でのホテル宿泊業界の厳しさと言ったら、わたしたちメディア業界の比ではありません。客室稼働率は10%を切り、営業が続けられず廃業に追い込まれたホテルや旅館もたくさんありました。その中で生き残りをかけて苦しいはずの、1878年創業の日本最古のホテルのひとつである富士屋ホテルのトップが、社員たちをこう励ましているのです。率直に感動しました。
ふと思い出したのです。約20年前、パリの病院「アメリカン・ホスピタル・オブ・パリ」の病室で、戦争取材の失敗で負った重症の体を横たえて絶望の淵にいる私を、達筆な手紙で励ましてくれたのが、当時、富士屋ホテルの部長であった勝俣伸さんでした。
冬のパリは、陽気なフランス人さえ陰鬱にさせるほど連日低く垂れこめた雲の下にあります。病室の窓から動かぬ身体で空だけを眺めていた私は、暗い気持ちの中にいました。わずかに入院生活の救いになっていたのが、親しんでいた文学や音楽、そして、日本からのメールや手紙でした。ロングフェローの詩、”Behind the clouds is the Sun still shining”(厚い雲の向こうには太陽が輝いている)を諳んじては奮い立たせている私のもとに届いた手紙のひとつが、のちの富士屋ホテル社長からのそれだったのです。
あれから20年――。厳しい時代の中、いまや富士屋ホテルのトップとして数千人の社員やスタッフを牽引し続ける同じ人物の年頭所感が、心に響かないわけがありません。
「雲外蒼天」 現代に生きるすべての人々に贈りたい良い言葉ではありませんか。コロナで塞いだこの時代、NOBORDERのみなさんにも触れていただきたい言葉でしたので紹介させていただきました。
さて、今年「8歳」になる『ニューズ・オプエド』を守るため、みなさんには厳しい提案をさせていただくことになります。これから個別に相談させていただきますが、みなさんにお願いする前に、当然ながら、私自身への処遇を決めなくてはなりません。次期株主総会で、30%の役員報酬カットをお約束いたします(4期連続減給)。まずは「隗より始めよ」です。
振り返れば、NOBORDER設立からのこの10年間、多くの困難がありました。理想だけでは乗り越えられない現実があったのも確かです。ひとりジャーナリストをやっていた時代とは比較にならないほどの徹底的な攻撃にさらされるようになったのも確かです(とくに上杉隆のメディア改革を目の敵にしていた一部の大手メディアから(笑))。
しかし、私がNOBORDERの社主である限り『ニューズ・オプエド』を止めることはありません。フェアな報道とジャーナリズムへの未来へのともしびを消すわけにはいきません。日本の言論空間の健全化のために不可欠なメディアとして、オプエドは未来に残さなくてはならないのです。それだけは引き続きお約束します。
私たちの上に垂れこめている雲は厚いかも知れません。しかし、その向こうには蒼い空が広がり、太陽が輝いていると思えば、乗り越えられないものはないのではないでしょうか。そのためには、みなさんの力が必要です。
改めて、本年も引き続きよろしくお願いいたします。
2022年1月4日
株式会社NOBORDER代表取締役社長 上杉隆
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